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オペラ「運命の力 La Forza del Destino」


 ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディGiuseppe Fortunino Francesco Verdiイタリア(1813-1901)




<作曲の経緯>


 ヴェルディVerdiイタリア(1813-1901)は、1859年8月29日ヴェルディとジュゼッピーナは、長い同棲生活を経てめでたく正式に結婚式をあげた。10月半ばに二人はシモン・ボッカネグラの上演のためナポリへ行き、ヴェルディ自身の指揮で上演され大喝采を受けた。

 1859年12月、ヴェルディはその名声と人気からカヴール首相から国会議員になるよう要請を受け、1861年1月、イタリア全土で行われた総選挙でヴェルディは国会議員当選する。2月にトリノで第1回イタリア国会が開催された。3月、サルデーニャ国王ヴィットリオ・エマヌエーレUは、正式にイタリア国王(在位1861-78)となる。これによってイタリアの統一が実現し、その後ヴェネツィアも併合される。教皇領はそのまま残される。

 オペラ仮面舞踏会(1859年初演)後、ヴェルディはサンターガタで農園生活を満喫していた。その2年後、1861年6月、ロシア、ペテルブルグ帝室劇場から新作オペラの依頼が舞い込む。この依頼はペテルブルグ帝室劇場のテノール歌手タムベリックによってもたらされた。ヴェルディの妻ジュゼッピーナも夫に承諾するよう勧める。まもなくヴェルディはユゴーHugoフランス(1802-85)「リュイ・ブラス」のオペラ化をロシア側に提案してなんとか承諾を得る。しかし、その頃ヴェルディはスペインのリヴァス公爵ドン・アンヘル・デ・サーヴェドラÂngel de Saavedraスペイン(1791-1865)の書いた劇作「ドン・アルヴァーロ、または運命の力1835年マドリード初演に興味を移していた。この作家はユゴーの影響を受けており、すぐれた構成をもっていた。人間の及ぶことができない運命の冷酷さを主題とした優れた劇構成に強くヴェルディは惹かれたといわれている。

 オペラ「運命の力」に登場するレオノーラの父は、アルヴァーロの偶然に暴発したピストルによって死ぬ。愛するレオノーラとアルヴァーロ――インカ帝国の王家の王子――は引き裂かれ、レオノーラの2人の兄――オペラは1人の兄になっている――はアルヴァーロを追う。しかし、兄はあげくの果てアルヴァーロに殺され、レオノーラも瀕死の兄に殺されてしまう。アルヴァーロもおかれた運命を嘆き、崖から身を投じる――これは原作と初演版にあったが改訂版には取り入れていない――。原作ではアルヴァーロに焦点をおいているのに対してが、オペラではレオノーラを中心に展開されている。台本担当はヴェルディの最強の協力者、フランチェスコ・マリア・ピアーヴェFranncesco Maria Piaveイタリア(1810-76)であった。

 1861年秋、ヴェルディ夫妻はロシアに向かった。しかし、レオノーラ役のラ・グリューアが病気で歌えないので上演は延期となるが、1862年10月10日ペテルブルグ初演した。この初演は、1869年改訂版とは多くの点で異なっている。序曲もかなり単純であったが、改訂版での序曲は名曲として評価が高い。スペインからイタリアに場面を移していた筋立にも不自然さがあった。アルヴァーロも原作通り自害する結末となっていた。暗い内容をもつこの大作は、ロシアでは好まれなかった。それでも初演版「運命の力」は、その後のロシア・オペラに道を切り開くオペラ作品となったのである。それはムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」、「ホヴァンシチナ」やボロディンの「イーゴリ公」などは、「運命の力」の存在なくしてはそれ以後のロシア・オペラの情熱的表現や、時間と空間を駆使した劇構成は考えられない。その後マドリード、ローマ、ニューヨーク、ロンドンなどで上演されたが、芳しい結果ではなかった。

 1863年、ヴェルディはピアーヴェに改訂の意志を伝えている。しかし、ピアーヴェは改訂を進めようとしていた時に激しい心臓発作や脳卒中に襲われ倒れ、積極的な改訂作業は不可能となった。そのためヴェルディはアントニオ・ギスランツォーニAntonio Ghislanzoniイタリア(1824-93)(後に「アイーダ」の台本を手がける)に、大方の改訂作業を托すことにした。ヴェルディの台本への厳しい要望はいつもの通り何度も書き直され、今日知られているような改訂版「運命の力」ができあがった。1869年ミラノ、スカラ座改訂版初演が行われた。これが現行普及版となる。台本ピアーヴェ、そしてギスランツォーニ補筆改訂版とヴェルディは記している。長年協力者ピアーヴェへのヴェルディの思いやりが伺えるのである。ピアーヴェの家族への援助も惜しまなかったといわれている。




<改訂版:音楽的特徴>


 「運命の力」は全体的に一見暗さが感じられるオペラである。この時ヴェルディ中期の終りに至っていた。そのためか親しみのあるヴェルディ中期の世界に戻っている面もある。宿屋兼酒場の場面=第2幕第1場にバレーの場面も多く取り入れ――ex.「ようこそHola,hola,hola」”、「タランテラと合唱」――フランス・オペラの常套句のやり方も顔を出している。アリア的な歌の伴奏方法、伴奏に徹した管弦楽のヴェルディ・オペラ初期の書法もみられる。そしてコミカルな要素が多く登場するのも興味深い。例えば占い師プレツィオシルラの描き方で笑いとユーモアにあふれる音楽を書いている。新兵に対して士気を刺激し――「戦争万歳Viva la guerra!」「笛や太鼓があたりにこだましLorche' pifferi e tamburi」――その他では行商人トラブーコが歌う――「ようこそHola, hola, hola!」――、舞台が修道院に移った場面で修道士メリトーネの描き方もおもしろい。修道院長をからかい、兵士たちに対する説教、修道院では浮浪者にスープを入れながらつぶやく場面も興味深い――第2幕第2場「お恵みを!Fare la carita'」――。こうした楽風は仮面舞踏会にもみられた。これはヴェルディ後期の個性となっている。

 そして観る者を喜ばせうっとりさせる間奏――第1幕「修道士の行進」――は長くはないが――もっと続いて欲しいと思うが、これが新しい波にいるヴェルディのやり方である!――、美しいオルガンそしてヴァイオリンのソロが続く。そして第1幕の序曲ばかりでなく、第2幕から第4幕の各幕の序奏も短いがとびきり美しいものである。

 登場する人物たちの描き方もヴェルディの新しいやり方を示している。それはそう明確でもなく強くもなく、鬱々とした心の動きをそこはたとなく描いている。これは注目すべき点であろう。登場人物それぞれを表現をする性格的な音楽が与えられている。強い信仰と苦難に満ちた運命を担ったレオノーラに駆り立てるような動機が当てられている。運命の力のテーマである。彼女が登場するとこの動機が流れ出す。これは有名な「序曲」に出てくるフレーズである。彼女に与えられた3つの歌は形式にとらわれずドラマの動きに密着した歌となっている――第1幕「私はさまようみなしごですMe pellegrina ed orfana」、第2幕第2場「あわれみ深い聖母よMadre, pietosa Vergine」、第4幕第2場レオノーラの「神よ、平和を与えたまえ!Pace, pace, mio Dio」――

 ヴェルディ・オペラの終幕が、大強音で強烈な印象で幕になるのが普通であった。だが、「運命の力」はそのようには終わらない。むしろ静かに消えていくように終わるようにしている。これはそれまでのヴェルディのオペラにはないやり方である。例えば第4幕第2場のレオノーラ、ラファエロ神父(アルヴァーロ)、グァルディー二神父の三重唱である。アルヴァーロによって瀕死状態の兄カルロは、妹を最後まで許さなかった。最後はついにレオノーラは瀕死の兄に刺されて死ぬ。彼女は神父の腕に抱かれ息絶える。グァルディー二神父は祈りと共にラファエロ神父(アルヴァーロ)に、司祭として神に身を捧げるよう勧める。こうした場面を経て静かに幕が降りるようにしている。この宗教的で精神的なヴェルディの表現は、マンゾーニの「婚約者たち」の影響だとされている。ヴェルディはマンゾーニの情熱的な宗教観に感動し、これに共感を覚えて変貌したヴェルディの姿がある。こうした教会的で平和に満ちた終曲は、アイーダオテッロ、そしてレクイエムでも共通している。

 ヴェルディは、カトリック教会に対してうつうつしたものを心に長く有していたとされる。子供の頃、教会でミサの司式司祭の侍者をしていた時、流れるオルガン音色に心奪われ役目を忘れたという。その時、祭壇の前にひざまづいていたヴェルディを促すために司祭に足で蹴られた、と終生司祭と教会に対する偏見を持ち続けたとされている。

 「運命の力」という題に込められたその意味は、第一には18世紀中頃のスペインに見られた民族的差別の問題である。それはすべてのこのドラマの根源となるアルヴァーロ、つまりインカの血を引く混血児としての運命を意味する。第二はアルヴァーロ、レオノーラ、カルロにあったうごめく苦悩がこの3人の背後を貫き、のしかかる避け得ない重い運命を意味している。つまり、アルヴァーロがこの運命を動かしていく存在で、レオノーラと駆け落ちしようとした夜に偶然とはいえピストルが暴発して、レオノーラの父をあやめてしまう。このためアルヴァーロはレオノーラから姿を消し、軍人となるのである。ついには神に救いを求めて修道士となり、司祭にもなった。だが彼を追ってきたカルロに血筋の侮辱を受け、決闘となる。深傷で死に行くカルロのために、アルヴァーロは岩屋の庵で生活する隠者に罪の許しを得るために会いに行く。その時、この隠者が男性に紛したレオノーラだと分かり、兄カルロのもとへレオノーラを急がせた。父カラトラーヴァ侯爵の命を奪う原因を作った妹レオノーラを許せない瀕死の兄カルロは、妹レオノーラを殺してしまう。ついにアルヴァーロ1人がこの世に残されることになった。今はアルヴァーロは修道士であり司祭であるが、この重い運命を背負って生き抜かねばならぬこととなった。




<物語>


序曲



 この<序曲>の冒頭に出てくる管楽器による<運命の動機>は、このオペラの展開を予感させる。管弦楽演奏会においてもよく取り上げ、演奏されることが多い<序曲>である。


第1幕 セビリャにあるカラトラーヴァ侯爵邸



 父カラトラーヴァ侯爵が娘レオノーラの部屋に、おやすみの挨拶をしに来た。そしてレオノーラが交際しているインカ帝国王子ドン・アルヴァーロとの結婚には反対だ、と娘に強く言い渡し、念を押したのであった。侯爵が出て行くと侍女は、レオノーラとアルヴァーロの駆け落ちの手はずを進めている。さすがのレオノーラにも迷いもあった。その時アルヴァーロがバルコニーから忍び込み、一緒に逃げて欲しい、とレオノーラに言う。すると父の侯爵があわただしくレオノーラの部屋に入って来た。そして剣を抜いた。和解を願うアルヴァーロは、秘かに所持していたピストルを身から遠ざけるために床に投げ出したのであった。その瞬間に弾が暴発して侯爵に当たってしまう。そして侯爵は、娘を呪いながら息を引き取ってしまう。二人は混乱の中、離ればなれになって逃亡して行ったたのであった。



 第2幕
第1場 オルナチュエロスの宿屋



 アルバーロと離ればなれになったレオノーラは身を守るために男装して、父の復讐に燃える兄カルロから逃れようとしていたのである。さて、その兄妹は偶然にも同じ宿屋に泊まり合わせることとなってしまった。しかし、兄は妹とは気付かない。陽気なジプシーの占い師プレツィオシルラが“戦争万歳”を歌っている間に、レオノーラは通りがかった巡礼者たちに混じって逃げ出した。妹を見失ったことに気づかない兄カルロは、自分の身の上をどこか他の土地で起こったこととして自らの名前をペレーダと名のり、他人ごととして語り始めるのであった。


第2場 天使の聖母修道院



 男性に変装したレオノーラは、フランシスコ会の天使の聖母修道院に隠れ家を求めてやって来た。呼び鈴に応えておしゃべりな修道士メリトーネが現れる。彼女は院長グァルディアーノ神父との面会を求めた。神父と2人になり、レオノーラは自分の身分と事情を告げて、この修道院に身を隠したいと懇願した。グァルディアーノ神父はすべてを理解し、彼女に一つの岩屋を庵として与えることを約束する。現れた修道士たちには、命をかけて罪を償う新しい隠修士が院内の岩屋に入る、とグァルディアーノ神父は告げた。そして誰も絶対近づいてはならない、と厳しく言い渡した。



第3幕
第1場 イタリアの近郊ヴェッレトリの戦場



 アルヴァーロは名を隠して、イタリアへに駐屯しているスペイン軍に入隊していた。アルヴァーロは、レオノーラはすでに死んだ、と信じ込んでいた。その時、近くの居酒屋で争いの音を聞きつけ、アルヴァーロが駆けつけ、仲間の士官を助け出した。
その士官こそレオノーラの兄カルロだった! 何も気づかず意気投合した二人は、友情を誓い合った。そしてすぐに二人は戦場に駆り出された。アルヴァーロは重傷を負ってしまう。介抱するするカルロが偶然に発した自分の家の名“カラトラーヴァ”で、アルヴァーロは動揺する。これを見て取ったカルロも疑いを抱いたのであった。瀕死のアルヴァーロは、カルロに自分の秘密の書類を焼却するように頼む。引き受けたカルロは、その中にレオノーラの絵姿を見つけた。その時、相手がアルヴァーロだと知り、大喜びするカルロだった。そして軍医の手で息を吹き返したアルヴァーロを見て、“これで復讐ができる!”と、決闘に挑もうとするが、周囲の仲間に止められた。アルヴァーロは、戦場を去って修道院に入る決意をしていた。


第2場 イタリアの近郊ヴェッレトリの戦場



 数週間後、ここには戦いの残党であふれかえっている。兵士、野営地に群がる人々、浮浪者、おびえた新兵たちである。したたかに商売するトラブーコもいる。修道士メリトーネも現れ、説教をしている。
 騒ぎがおさまると、そこへ傷もすっかり癒えたアルヴァーロが登場する。カルロが彼を見つけ、身分を明かし、決闘を申し込んだ。そしてカルロの口から、レオノーラが生きており、彼女を殺すつもりであると告げたのであった。これを聞いたアルヴァーロは、怒りを爆発させる。通りかかった巡視兵が、二人を引き離す。アルヴァーロはこの時、この地上的苦悩を修道院に入って神に捧げることを決意する。


第4幕
第1場 天使の聖母修道院



 
修道士メリトーネは、ぶつぶついいながら浮浪者たちにスープを配っている。これを咎めて院長のグァルディーノ神父は、慎みをもつようにと注意した。そして苦悩するラファエロ神父――実はアルヴァーロだった。この修道院に入会していたのである――は、他の修道士たちに、浮浪者たちにやさしく接するようにと教えていた。そこへカルロが、アルヴァーロに仇を打つためにやって来た。すでに修道僧となって神の道を求めるラファエロ神父は、決闘を拒否した。だが、またしてもインカの血筋について侮辱されたラファエロ神父(アルヴァーロ)は決闘に応じてしまう。その結果カルロは傷を深く負い、瀕死状態となった。


第2場 岩屋の庵



 修道院内の岩屋の庵でレオノーラは、神に平和を祈っている。すると人がやって来る気配に心が騒いだ。その時、アルヴァーロ、つまりラファエロ神父が駆け込んで来た。死に逝く者の罪のゆるしを与えて欲しいと、信仰あつい隠者に願いに来たのである。だが、アルヴァーロ(ラファエロ神父)は、目の前に隠者の姿に扮したレオノーラを見て驚く。瀕死の兄カルロもそこへやって来て、最後まで誤解の解けない兄は妹レオノーラを見つけ刺してしまう。それでもレオノーラは神のみ手にすべてを捧げ、グァルディアーノ神父の腕に倒れて息絶えたのであった。一人生き残ったラファエロ神父(アルヴァーロ)は、大きな衝撃を受けてしまう。グァルディアーノ神父は、自らの救いを求め、神に身を捧げるように、とラファエロ神父(アルヴァーロ)に説いて教えたのであった。
 ――ラファエロ神父となったアルヴァーロ、レオノーラ、そしてグァルディアーノ神父による崇高な三重唱で幕は閉じられる。――




参考ディスク

BD KIXM122 「運命の力」

ジャンルイジ・ジェルメッティ指揮、ステファノ・ボーダ演出
パルマ王立歌劇場管弦楽団 &合唱団

レオノーラ
ドン・カルロ
ドン・アルヴァーロ
プレツィオシッラ
グァルティアーノ神父
メリトーネ
カラトラーヴァ侯爵
トラブーゴ親方
外科医
ディミトラ・テオドッシュウ(S)
ウラディーミル・ストヤノフ(Br)
アキレス・マチャード(T)
マリアーナ・ペンチュヴァ(Ms)
ロベウロト・スカンディウッツィ(Br)
カルロ・レポーレ(Br)
ジャン・アトフェー(Bs)
キム・ミョンホ(T)
ガブリエーレ・ポッレッタ(Bs)

収録:2011年3月2、5日パル王立劇場マライヴ  発売:2013/7/24


DVD UCBG1146 ヴェルディ「運命の力」 発売:2006/6/7

ジェームズ・レヴァイイン指揮、ジョン・デクスター
メトロポリタン歌劇場・合唱団

カラトラーヴァ侯爵
レオノーラ
アルヴァーロ
ドン・カルロ
トラブーコ
プレツィオシルラ
修道士メリトーネ
グアルディーノ神父
リチャード・ヴァーノン(Bs)
レオンタイン・プライス(S)
ジュゼッペ・ジャコーミーニ(T)
レオ・ヌッチ(Br)
アンソニー・ラチューラ(T)
イゾラ・ジョーンズ(Ms)
エンリコ・フィッソーレ(Br)
ボナルド・ジャイオッティ(Bs)

収録:1984年3月24日メトロポリタン歌劇場


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