後期ロマン派の概略
後期ロマン派というのは、狭義には
ヴァーグナーWagnerドイツ（1813-83）の後継者、信奉者たち、つまり
ヴァーグネリアンを中心に捉えていう。彼らは
標題音楽の理念に基づいて音楽の世界を展開した。
絶対音楽の音楽観をもつ人たち、例えば
ドイツ･ロマン派の
ブラームスBrahmsドイツ（1833ｰ97）などと激しく対立した。また時期的には
近代音楽――特にフランスで展開された
フォーレFaure'（1845-1924）、
ドビュッシーDebussy（1862-1918）、
サティSatie（1866-1925）、
ラヴェルRavel（1875-1937）など――と重なるが、根本的に理念や内容は異なっている。
上記の近代音楽グループと比べてみて言えば
後期ロマン派は、過去の時代に立場を置き、最前衛にいたとは言い難い。主な作曲家をあげると、
ブルックナーBrucknerオーストリア（1824ｰ96）、
マーラーMahlerオーストリア（1860-1911）、
ヴォルフWolfオーストリア（1860-1903）、
リヒャルト･シュトラウスRichard Straussドイツ（1864-1949）ということになる。古さにちょっぴり新しさがブレンドされている人たちでもある。そして重厚な音楽、すなわち時間的にも物理的な編成の点でも分厚い音で綴られ、その作品の自体のスケールも大きい。それは管楽で言えば楽器編成の大きさや楽曲の長さなどに現れている。肥大の極みに至ったとも言えなくもない。
ブルックナー、
マーラーや
R.シュトラウスの三人の作曲家がどのように
ヴァーグナーの後継者であり得たかは、色々な見方が可能である。物理的に最も近くいたのは
ブルックナーであった。他の二人は無関係にあったようにも思われる。敢えて言えばブルックナーの内面的な音楽世界は
ブラームスの近くにいたように思える。だが、外的な面、物理的といってもよいかもしれない。つまり楽器編成、楽曲の時間的長さはまさしくヴァーグナーの世界であった。なぜヴァーグナーは、自分とは趣を異にするこの地味すぎる音楽家が近づくことをよしとしたのか不思議でもある。あるいはブルックナーの方もどうして近づいていったかと思ってしまう。ともあれヴァーグナーにとってこのアカデミックな音楽家、つまり正統的な研鑽と硬派で正統的な音楽業績を収めた、しかも
ヴィーン市立音楽院Konservatorium教授（通奏低音、対位法、オルガンを教えていた）、
ヴィーン大学Universität講師（和声学と対位法を教えた。1875-76年）であるブルックナーの存在は自分が有しないものを持つ音楽家であった。ヴァーグナーの方は100％経済的には完全に他人に頼り、自立しない完全なる19世紀形音楽家であった。などなどでヴァーグナーの心を捉えたにちがいない。ブルックナーが自分に無い地位や社会的立場にいたことは確かである。ヴァーグナーの持ち続けたコンプレックスは、学歴ばかりでなく自分が作曲家として独学から立ち上がったいわばディレッタントであるということにあった。作曲の専門的な教育を受けなかったという点に端を発していた。
ブルックナーの方もヴァーグナーの音楽に100％心酔しないとしても彼の行動力、政治力なや社会的名声などをもつヴァーグナーに惹かれ、なんらかの助けを求めたとしても不思議なことではないと思われる。実際、ヴァーグナーを介してバイエルンの国王
ルーヴィヒⅡとも知り合い、ひとときであっても援助も受けた。ヴァーグナー･オペラの伝統を引く
R.シュトラウスは、ヴァーグナーに対する真の思いはいかなるものであったのだろうか。興味ある点である。とはいえヴァーグナーの
トリスタン世界に代表される功績は音楽史における偉大なるものあったことは確かである。
また、ドイツ系の作曲家だけではなく、他の国にも後期ロマン派の傾向を示す作曲家がいる。これについては多様な論があると思われるが、敢えて示すと下記の作曲家をあげてもいいのではないだろうか。
ex.
ヤナーチェクJanácekチエコ（1854-1928年）
エルガーElgarイギリス（1857-1934）
グラズノフGlazunovロシア（1865-1936）
シベリウスSibeliusフィンランド（1865-1957）
ノヴァークNovakチェコ（1870-1949）
ラフマニノフRakhmaninovロシア（1873-1943）
ファリァFallaスペイン（1876-1946）
レスピーギRespighiイタリア（1879-1936）
シマノフスキSzymanowskiポーランド（1882-1937）
オルフOrffドイツ（1895-1982）
ガーシュインGershwinアメリカ（1898-1937）
コープランドCoplandアメリカ（1900-90）
ロドリーゴRodrigoスペイン（1902-99）
etc. |
幸田 延日本（1870-1946）
滝廉太郎日本（1879-1903）
山田耕筰日本（1886-1965）
團伊玖麿日本（1924-2001）
etc. |
参考：ロマン派の概念 ロマン派年表
★ ロマン派の作品
1998-2024
