ヘンデル「テオドーラ」はオペラか？
いいえ、原曲はオペラではなく
オラトリオ。クイズ出演の際はお忘れなく
（笑）。さて、
ヘンデル（1685-1759）は
バッハ（1685-1750）と異なり、イタリア、イギリスと活動の場を移した。
1706年から1710年まで滞在した
オペラ誕生の地イタリアでは、特にイタリア･オペラを吸収し、彼の腕はこの時磨き上げられた。当時ヨーロッパでは
オペラといえば、イタリア語で作られるのが一般的で、ヘンデルもドイツにいる時からイタリア語によるオペラ、つまりイタリア･オペラを作曲。生涯でオペラを45曲作曲したが、ドイツ語オペラは１曲のみ。1710年からイギリスに腰を据え、彼の一番の活躍分野はオペラであった。大方のイギリス人にはイタリア語は理解出来ないし、加えてイタリア人歌手を招いての上演は、経済摩擦も生じさせた。イギリス人には受け入れ難く、終局的にはヘンデルの名声と人気も陰ってしまう。すでに
イギリスに帰化していたし、ドイツ帰国も決めていた。そうした1742年初演の
英語オラトリオ「メサイア」が思いがけない大成功をおさめ、これが大きな分岐点となって英語による
オラトリオ作曲家として大活躍してイギリスに留まり続けた。
ヘンデルは
「メサイア」（1742年初演）以後、英語テキストによるオラトリオを作り受け入れられた。今回ご紹介する
オペラ「テオド－ラ」（台本英語）のディスクは、
オラトリオ「テオドーラHWV68」（1749年作曲）をオペラ化した上演である。ヘンデル晩年のこの作品によって、絶えず新しくなり続けたヘンデルの姿を知ることができる。このオラトリオ
（オペラ）の題材は４世紀のキリスト教古代ローマ皇帝
ディオクレティアヌス（245-313）によるキリスト教迫害時代の末期の話が扱われている。
４世紀のアンティオキア
（現南トルコ）のキリスト教徒王女テオドーラはローマ総督の命に背き、神殿にいけにえを捧げなかった。捕らえられ、娼婦にされる。キリスト教徒になったローマ軍人はテオドーラの身代わりとなって彼女を救い出す。しかし、テオドーラはローマ総督に直談判するもテオドーラとローマ軍人の二人の処刑が言い渡されてします。二人とも殉教となった。
同名の殉教者聖女テオドーラは教会史に実在するが、筆者の見る限りこの時代の人物ではない。物語を合成アレンジした可能性もある。例えば230年頃ローマで殉教した
聖セシリア（チェチリア）の史実とたいへん似ている。ちなみにキリスト教がローマ帝国に公認されるのは、皇帝ディオクレティアヌスの副帝だった
コンスタンティウス皇帝（272-337）による
313年のミラノ勅令から始まり、ローマ帝国から始まる西ヨーロッパのキリスト教の歴史が大きく構築されていく。
ヘンデルは、真摯にキリスト教の教義や史実を取り扱い、オラトリオの役割の一つであるキリスト教の啓蒙に大いに貢献した。このディスクは、
オラトリオ「テオドーラHWV68」（1749年作曲、1750年初演）の初演の地であった2022年にコヴェント・ガーデン王立歌劇場で、オペラとして上演された収録映像である。しかも現代の政治的対立によるテロリズムに大胆に読み替えた演出が行われた。これには賛否両論が沸き起こったという。これをヘンデルはどう思うだろう。そしてわれわれはどう考えるべきか。これは目に見える演出部分だけであって、音楽自体はは原曲のままである。
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