旧約聖書：ユダの捕囚

旧約聖書：ユダの捕囚

［旧約聖書：列王記下･第24～25章］

＜サウルからネブカドレツァルまで（BC.1050-610）＞

　バビロン王ネブカドレツァルは、聖書に記述された歴史上の人物である（BC６世紀）。近年の湾岸戦争の際、イラクのフセイン大統領（2006年12月30日処刑された）がこのネブカドレツァルの名を出して、自分は20世紀のネブカドレツァルであると言ったのは興味を惹いた。バビロン王国は現代のイラクに位置していたからである。イスラエル人の暗黒の時代とされる“バビロンの捕囚”は、“ユダの捕囚”ともいわれる史実である。

<イスラエル王国の誕生>

　預言者サムエル（BC1050～1020年頃）は、エフライム山地のラマに住み、イスラエル王国建設以前に生きた大人物であった（サムエル記上７・16-17）。イスラエル部族連合はBC11世紀後半に解体し、王権支配の機運が熟し、イスラエル人たちも他民族のような王の存在を望むようになった。だが、サムエルは反対した。王という存在は、国民を圧迫する者だと考えていたからである。そして神のみが主であり、王であると考えていた。しかし、こうした時サウルは神の命が下り、イスラエル人たちの初代の王となった（サムエル記上１章～28章、サムエル記上10・2、10・77～11・14）。

<王国の分裂（ダビデの王国とエシュバアルの王国）>

　サウルの死後ダビデがヘブロンでユダの王となり、サウルの息子エシュバアルがイスラエルの王となった（サムエル下２・9-10）。こうして王国は、ユダとイスラエルの２つに分裂した（BC1006～1004年）。

<ダビデ･ソロモン時代のイスラエル王国>

　２つの王国は敵対するようになり、これが互いの力を弱め合う結果となった。こうした中、ダビデがこの２つの王国イスラエルとユダの支配を手に入れた。そしてエブス人の町エルサレムを征服し、首都とした（サムエル記下５・7）。異民族に支配されたエルサレムは、それまでイスラエルの北と南の部族を分けるくさびであった。だが、ダビデはそれを取り除く。これによってエルサレムはイスラエルの首都となり、これ以後イスラエルの歴史の中心的な役割を果たす都となった。

　ペリシテ人はダビデ打倒を計るが叶わなかった（ヨシュア記15・8）。ダビデはイスラエルの軍事的･政治的指導者として君臨し、ここにダビデの王国イスラエルはシリア･パレスチナの主要国となっていく（BC990～968年頃）。

　イスラエル王国はダビデの子ソロモン（列王記上５・4）（BC990～928年頃）の治世下になり、国際的な重要な国にまで益々成長する。ソロモンは聖地の歴史における偉大な建設者の一人として今も知られている（列王記上６・37～７・1）。ソロモンは彼の巨大な王国に亀裂が生じ始めていたにも拘わらず、パレスチナを通る重要な交易路とその交易を掌握し続けた。この豊かな交易は、シバの女王の訪問伝説にも明示されている（列王記上９・26～10・29）。

　この王国は諸族の不一致とペリシテ人の脅威の増大の中で、独自の特徴と独特な使命をもつ存在であった。だが、ソロモンは次第に専制君主のような存在になり、さらに異教の偶像崇拝に陥り、エルサレムにそうした異教の神殿まで建造させた（列王記上６章、エゼキエル書40章）。これによってイスラエル王国は、終わりを告げる運命を担う。

<王国分裂>

　ソロモンの死後、イスラエル統一王国は再度２つに分裂した（BC928年）。ソロモンの正統な世継ぎとした北王国イスラエルとダビデの子孫とした南王国ユダである（列王記上11・26～12・33）。ダビデが創設した王国は、誕生した時と同じような早さで崩壊していく。放浪の預言者エリヤは偶像崇拝だけでなく（列王記上19・14）、社会悪に対抗する最初の偉大なる預言者としてこの時、現れる（BC９世紀中期）（列王記上21・19）。

<イスラエル王国の崩壊>

　イスラエルの最後の王ホシュアは、ティグラトピレセルⅢ死後アッシリアに反乱を起こした。BC724年にシャルマナサルⅤがサマリアを攻撃した。ホシュアは抵抗したが、３年後にサマリアは征服された。サマリアの占領によってイスラエル王国は陥落した。これによってイスラエル全人民は、アッシリア帝国の諸地方に送られた。サマリアのサルゴン王は、部下の老練な軍人と北東からの他の民族を住まわせた（列王記下17・24）。これが現在のサマリア人の先祖となる。ユダ王国は生き残ることになった。

　預言者アモス、預言者ホセアが活躍し、ユダ王国エルサレムではダビデ家の王子の預言者イザヤが社会的不義と堕落を抗議し、たとえイスラエルとユダが滅んでも悔い改めて生きる意味を述べた。

<アッシリア王国の崩壊>

　BC626年にバビロニア人の長ナポポラサルが峰起し、バビロン市の入り口でアッシリア軍を打ち破った。そこへアッシリアの宿敵エジプトが、アッシリアを援助するためにやって来た。メディア王国の軍がBC614年にアッシリアのアッシュルを征服してしまう。それから２年後バビロニア･メディア連合軍がニネベを陥落してしまった。そしてBC610年にハランが攻め落とされ、アッシリア王国は姿を消した。

＜バビロニア帝国とユダの捕囚（BC.628-582）＞

　ユダ王国はヨシアの治世（BC628～609年）の時、アッシリアの崩壊を機に、パレスチナ全土でダビデ王国の復興を果たした（列王記上13・2）。ヨシアの子ヨアハズが次の王となったが、エジプトの王ファラオ･ネコはヨアハズの兄弟ヨヤキムを王とした（列王記下23・33-35）。

　ヨヤキムの第四年のBC605年にバビロニアの王ネブカドレツァルは、先ずカルケミシュを（エレミア書46・2）、そしてその後もう一度ハマトを撃破した。１年後アシュケロンを征服した。ユダは再びバビロニアの小属国となり、すぐにバビロニアとエジプトの絶え間ない戦いの中で押しつぶされていく。

　新バビロニア帝国はアッシリア帝国の大部分を継承した（列王記下24・7）（BC６世紀初期）。ヨシヤの子ヨヤキムは、パレスチナがバビロニアの支配下に入ってもそのまま王位にとどまり巻き返しを計る。だが、死んでしまった（エレミア書22・18-19､36･30）。彼の18才の子は降伏し、彼の家族や王国の上層階級の多くの人々と共にバビロニアの地へ連れ去られた（列王記下24・14、エレミア書52・28）（BC597年･第一次捕囚）。

イスラエルの民の捕囚の地バビロン：

　バビロニアの都市。メソポタミア地方の古代都市で、バグダードの南方90kmの地点にユーフラテス川をまたいで、広がっている。

　ネブカドレツァルはヨシヤの子ゼデキヤを王位につけた。彼はバビロニアに新たな反乱を起こそうとしたが（BC589年）、逆に容赦なく過酷な報復を受けた。ユダの町々は次々と破壊されて、ついにBC586年夏にエルサレムが征服された（列王記下25・1ｰ21）。１ヶ月後バビロニア人はエルサレムの神殿と町全体を焼き、そして再び多くの人々がバビロニアへ連れ去られた（第二次捕囚）。

　BC582年にも多くの人々が連れ去られた。捕囚民の大部分はニップルおよびバビロンの近郊を流れるケバル川流域の各村に植民された（エレミア書52・28-30）（第三次捕囚）。

　バビロニア支配下のユダ王国の破壊の有り様は、きびしく過酷であった。破壊された居住地の一部は他の民に即座に占領され（エレミア書39・10）、捕囚民となった人々の間で大きな憤りを買った（エゼキエル書33・21-27）。ユダの丘陵地帯中央部にいた住民はすっかり捕らえられてバビロニアの地へと移された。その部分には新しい住民を移植しなかったが、エドム人（ユダに隣接する南東の国）によって掌握されていった。この時点で、王国としてのユダは完全に消滅した。だが、国土も王も都エルサレムも神殿も失ったユダ王国ではあったが、精神的には強い団結と信仰を守り育んでいく。エレミアやエゼキエルはこのできごとを預言し、民を支え導き続けた。この時、今もこの民族の誇り高い呼称でありコンセプトである「ユダヤ」が確立したと言っていいだろう。

　ヴェルディオペラ「ナブッコ」　

　このオペラは聖書を下敷きにして大幅に再構築されている。ナブッコNabuccoはイタリア語での綴りNabucodosorを簡略化した呼称である。その物語は聖書の記述とも史実からも大きく異なる。