作者不詳：ロマネスク時代
「イサクの犠牲」
この浮き彫り彫刻は、フランスのスイヤックにあるベネディクト会大修道院サント･マリー教会に在る。教会堂入り口の真ん中にある柱に彫られたものである。
1075年から1150年頃に建立された美しいロマネスク様式を示している。さて、老人アブラハムが神の指示に従い、わが子イサクを生け贄に捧げようとする瞬間が、この中柱の左側面に彫られている。アブラハムは右手に刃物（この画像では見えない）を持ち、左手でイサクの髪を掴みまさに命をとろうとしている。
そもそも神と人間の最初の接点は、聖書によればメソポタミア、現ペルシア湾に面した肥沃な地（現イラク）であった。その人物はその地の豊かな豪族アブラム（後のアブラハム）で、彼はおよそ今から3000年前頃の人である。彼の一族は、平和にしかもたいへん豊かに恵まれた生活を営んでいた。ある時、突然、彼が全く知らない神から命令を受けた。というのは彼もその地で敬われていた宗教をもっていたのにである。「あなたは生まれた故郷父の家を離れてわたしが示す地に行きなさい。」（旧約聖書・創世記12･1）。彼はその声を真の神と信じた。ただただその声にしたがい、その意味も分からず行き先も知らずに旅立って行く。三日月地帯――ペルシア湾からチグリス川・ユーフラテス川を遡り、シリアを経てパレスチナ、そしてエジプトへ到る半円形の地域である現イラク、シリア、レバノン、イスラエル、パレスチナ、エジプトへ。さらに東南トルコ、西北ヨルダン、西南イランへ――を経て彼の一行はカナンの地に辿り着いたのであった。
聖書は彼の息子イサクは妻サラが90歳の時、神によって約束された日に生まれた。しかし、すでに彼女の侍女ハガルにアブラハムの子イシュマエルが生まれていた。サラはイサクの地位を確かなものとするために、このハガル母子を一族から追放するようアブラハムに願い出た。アブラハムは心を痛めつつ、神に助言を求めた。神は、サラの望み通りにするようにアブラハムに命じた。こうしてハガルとイシュマエル（旧約聖書・創世記：16・１-16）は荒野へ追放された――彼らがアラブ民族の祖となったとされている。
時は流れてアブラハムは、跡取りとなった一人息子イサクを生贄(いけにえ)に捧げるよう、信じる神によって命じられた。神の約束の「あなたの子孫はイサクによって伝えられる。」（旧約聖書・創世記：21・12）の約束と違っていたが、アブラハムは神の言葉にただただ従うとした。イサクの上に刃物を振り上げた瞬間、天から神の御使いが現れてその行為を指し止めた。アブラハムは神が用意された茂みに角を絡ませた雄羊を、イサクの代わりに神に捧げた（旧約聖書・創世記：22・１-19）。試練を乗り越えたアブラハムはほむべき信仰者として、今もなおユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒によって同じく顕彰されている。
1120-35年制作 フランス、スイヤック、ベネディクト会大修道院サント･マリー教会
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